◆水の中にある水のような存在から脱却するためのある試験的実験◆ 「お前が恭弥か」 よろしくな、という言葉と共に翻る鞭が、雲雀の頬を掠めるように、コンクリートに叩きつけられる。 頬を薙ぐ風圧でうっすらと血がにじんだ雲雀はしかし、まったく顔色を変えずに。 「…咬み殺していいの」 唇だけで微笑んだ。 「で、指輪の守護者がお前…って、おい、キョーヤ」 特訓終了後。 一応自分がここにいる理由を説明していたディーノを無視し、鞭によって与えられた傷もそのままに雲雀は立ち去ろうとしていた。 ディーノが慌てて雲雀を追いかける。 「待てよ」 細い腕を掴むと、雲雀は反射的にディーノの手を振り払う。 「ったく。リボーンの言ってた通りだな」 苦笑するディーノを雲雀は見返し、「リボーン」と口の中だけで呟く。 そういうことか。 この金髪の男は、あの赤ん坊に言われて自分の特訓とやらに来たのだ、と納得する。 なかなか咬み応えのある相手だが。 まだまだあの赤ん坊には敵わない、とも。 「貴方の話、もう少し聞いてもいいよ」 真意を悟られないように、悠然と微笑んだ雲雀に。 ディーノが笑い返す。 「っん…くっ……」 腹ばいになり、シーツをきつく噛み締めた雲雀の口からうめきのような空気の塊が洩れ出る。 下肢を露わにされ、上半身からも衣服を剥がされていた。 薄い肉の下の骨が綺麗に浮かび上がっている背中には、括られ赤く擦りきれ始めた手首が革ベルトで括られている。 「声、出せよ。聞いてやるから」 雲雀の背中を片腕で抑え込んでいるディーノの冷えた声が降ってくる。 もう片一方の手は、力を入れて必死に抵抗をしている雲雀の足の間から彼自身をいじり、くちゃりくちゃりと音を立て続けていた。 戒められている腕を曲げさせ、その間からディーノが舌を背骨に沿ってゆっくりと這わす。 びくんっ、と。 雲雀の背中が跳ねるように痙攣した。 「こっちも、こんなになってるじゃないか…」 恭弥、という囁きと共に、きゅっとそれを握る手に力を込め、緩める。 と同時に。 雲雀の先端から粘つく液が溢れだす。 びくりびくりと震えている力の緩んだ足の間から手を引き抜くと、そのまま割れ目に沿って指をつと動かし秘所へと向かう。 くちゃくちゃと、淫猥な音を響かせディーノの指と背骨に沿って到達した舌とがそこをほぐしていく。 「っふ」 慣れぬ感覚に雲雀は息を飲んだ。 舌と共に侵入してきた1本の指が、何時の間にか2本になり、3本に。 その間も雲雀は自分の後方から発せられる音に耐えるかのようにシーツを噛み締め、頭を痛いくらいベッドに押し付けていた。 「ねぇ、あなたのこと教えてよ」 指輪争奪戦について、屋上で一通り話した後。 家まで送っていくというディーノの車の中。 二人で後部座席に並んで座り、雲雀が窓の外を眺めたまま言う。 広い車内のシートの上、触れ合わないぎりぎりの所に置かれたディーノの指先にそっと雲雀の指が触れる。 「恭…弥?」 怪訝そうなディーノの声に、雲雀はそっぽを向いたまま。 「……メシ、食ってくか…」 ディーノに触れる指にきゅっと力を込め、雲雀は微かにうなずいた。 深夜の街中を二人を乗せた車がブレーキ音を響かせ方向転換した。 雲雀を慣らしていたものが抜かれ、腰を掴まれ体を浮かされる。 すっと、その両足をディーノは開くと、隙間に体を滑りこませた。 両腕の束縛のため浮き出た肩甲骨が痛々しい。 「!」 入り口に熱い塊が充てがわられる。 そして、一気に。 ディーノの侵入してきた衝撃に雲雀の体の血は逆流し、瞬間、止まる。 すぐに。 血の味のような空気が、血流と共に頭まで駆け抜けた。 「っ!」 奥歯が砕け散るのではないかという程、歯を噛み締める。 先ほどから雲雀の唾液で濡れていたシーツが口の中でちぎれるようだった。 「くっ」 ディーノも苦痛に眉を寄せ、雲雀の中で少しだけ動く。 びくん。 雲雀の体が跳ね、締めつける力が強くなる。 「力、抜けよ」 つ、と指を雲雀の背中に走らせる。 少しだけ雲雀が緩んだタイミングで、ゆっくりとそれを引き出す。 こわばっていた雲雀の背中から力が抜かれ、開かれた雲雀が閉じていくのを感じる。 ディーノは雲雀の髪をぎゅっと掴み、くいっと、雲雀の顎をベッドから浮かす。背筋の力だけで抵抗しようとする雲雀を意にも介せず、噛み締められ唾液でぐちゃぐちゃになったシーツを無理やり口から引き抜く。 「声、出せよ」 楽になるぜ、と。 耳元で囁き再び、ぐちゅり、とディーノが己を押し込む。 「くっ…はっっ」 頭を無理やり後ろに反らされた雲雀の開いた口から、食空気の塊が飛び出る。 「もっとよくしてやるよ」 片手で黒い髪を掴んだまま、もう一方がベッドにこすられ膨張しきっている雲雀を弄ぶ。 無理やり開かれ、弄ばれ、ジュウリンされている己をディーノから逃れさせようと雲雀はもがく。 しかし、手は拘束され、足の間にはディーノがいる状態では、体をほんの僅か動かすことだけしかできない。 「ころ…して……やっ」 絶え間ない痛みに耐えながら、精一杯の抵抗で呪いの言葉を吐く雲雀にディーノは容赦なく行為を続けた。 屋上で戦って、この程度の男ならうまくあしらえると思った。 大人びた美貌を持つ少年は、自分へ向けられるある種の好意に敏感だった。 ディーノが名前を呼んだとき、雲雀と目が合い微笑んだとき、車の中で指が触れたとき。 その全てが自分へと向かう相手の好意を試すものだった。 食事をしていけよ、と言われホテルに付いてきたのも。 食事の間中、雲雀にとってはどうでもいいレベルの苛立たしい群れや彼のファミリーの話しを聞く振りをしたのも。 全てはこの男から、あの赤ん坊の情報を聞き出すための手段でしかなかった。 なかなか口を割らない目の前の男に退屈し始めたとき。 「こっちにこいよ」 と照れくさそうに誘われた。 雲雀にこりと微笑み席を立つと、ディーノに軽くキスをして。 二人でベッドにもつれ込んだ。 自信はあったのだ。 聞きたいことだけ引き出して、自分が傷つく前にひらりとかわせる自信が。 だから。 強い力でベッドに押し倒されて、口腔に舌を入れられても。 大丈夫だと。 自分は安全だという、根拠のない自信が。 シャツのボタンを丁寧にはずされ、ディーノの唇が鎖骨を這う。 くすぐるように触れる、その豪奢な金髪を雲雀がそっと撫でる。 「ねぇ、あの赤ん坊のこと…っん」 ベルトを抜き取られ、ずり下ろされたズボンの隙間からディーノの指が雲雀を掴む。 ほぐすように動かされ、雲雀の体温が一気に上昇する。 「っは…ねぇ……おしえ……て」 雲雀の甘いねだりに、小さな花のような雲雀の胸の突起を含んでいたディーノが、ふわりと顔をあげ、へらりと笑った。 そして、表情が消え。 整った造詣にふさわしい。 凍るような、壮絶な微笑みへと変わる。 瞬間。 雲雀の背中が逆毛立ち、ディーノから逃れようと本能的に体を動かす。 その動きを押えこみ、ディーノは雲雀を腹ばいにさせた。 強い力だった。 あの屋上での特訓が嘘のような、圧倒的な力。 雲雀は必死でもがくものの、その両腕はディーノに絡め取られ、間接と逆方向に締めあげられている。 ねじり上げられた腕から、シャツがするりと剥ぎ取られる。 その両手首につめたい革の感触が幾重にも捲きついてきた。 先ほど抜き取った雲雀のベルトでディーノが縛りあげたのだ。 しっかりと、抜けないように。 「子供の遊びじゃねぇんだよ」 怒りを押し殺したような低い声が、雲雀の首筋で震える。 そして、雲雀の下肢が一気に暴かれた。 ベッドには、無理な姿勢で何度もいかされ、ぐったりとした雲雀の白い体だけが放り出されていた。 戒められていた両手首には、赤いあと。 うっすらと開かれた瞳は強烈な殺気を放ち、ままならぬ体と戦っていた。 「被害者面するなよ、恭弥」 ふわりと雲雀の体を覆うように、ディーノが新しいシーツを掛ける。 屈みこみ、その耳元で一言。 「誘ったのは、お前だぜ」 甘く残酷に、囁いた。 「…殺して…やる」 雲雀は目を閉じ、小さい声で。 しかし、明確な殺意を込めて。 「ああ、殺しにこい」 面白そうに、ディーノは目を細め、剥き出しの肩までシーツを引き上げ雲雀の目じりを拭う。 徐々に穏やかなものへと変わっていく雲雀の呼吸を確かめ、 「恭弥」 と、優しく。 「ようこそ、血と暴力の世界へ」 俺たちの世界へ…。 天使のような微笑みをディーノは浮かべた。 |