2月お題 『流血でびしょびしょ


あいにくのあめで




「ああ、降ってきたな」

劇場から出ると、雨が降っていた。
内陸の乾いた土地に降る冬の雨は、恵みというよりもその寒々しさを浮かび上がらせ、人々の足を速めさせるのだった。

「傘、持ってきてないの」

劇場の大階段に留まり、雲雀がディーノを見ることもせず言う。

「傘かぁ。んなもん持ってくるわけねぇだろ」

劇場帰りの紳士面には似合わない、わざと乱暴な口調。

「それはそうか。こっちの人たちは自分で傘なんて持たないものね」

どこか皮肉な調子で雲雀が「どうするの」と目で問うた。

「っしゃ。歩くぞ」

言うが早いかディーノは雨の中に飛び出し。
仕方なく、雲雀も後に続いた。
しかしその瞳はどこか楽しげだった。



あと少しで雲雀のアパルトマという所で事件は起きた。

ヒュン。

と、闇の中のかすかな響き。
銃声だ、と思った瞬間二人は身を屈め駐車してあった車の陰に隠れた。
「どこからか分かるか」
ディーノが雲雀を庇うようになりながら、目配せする。
「…多分、あそこの角。サイレンサー使ってるからはっきりしない」
雲雀が相手の場所を告げる。
「銃、持ってるよな」
ディーノは雲雀に確かめ、闇の中に身を踊りだす。
遮蔽がなくなり、ディーノの姿を捉えたのか、狙撃者の第二射が放たれる。
雨のため、狙いがうまく定まらないのかディーノのすぐ横の石畳で火花が散る。
ちっ、と雲雀は珍しく舌打ちをすると、巧妙に隠してあった銃を手早く構え、狙いを定める。
ディーノは反対側の屋敷塀に身を寄せ、手を少しだけあげ雲雀に合図をした。
再びディーノが通りに身を出し、姿を晒す。
第三射。
ディーノの体が道に倒れこむのと、雲雀が弾を放ったのが同時だった。
離れていても手応えは感じるもので、狙撃主を倒した、と雲雀は確信し、それでも周囲に気を配りながらディーノへと駆け寄る。
「どじった」
腕を押さえながら、ディーノが苦笑する。が、それもすぐに苦痛のゆがみへと変わっていく。
雲雀は何も答えず、さっとディーノへ手を差し出す。
「とりあえず、移動したほうがいいと思う」
たった今人を傷つけたとは思えない程、むしろ人を傷つけた者にふさわしい程の冷静な声だった。


「で、心当たりは」
「ありすぎて分かんねぇよ」
降りしきる雨を避けるように、二人は路地の隙間に身を隠していた。
このまままっすぐ帰って家で襲撃を受ける趣味はない。
「やまねぇな…」
腕の手当てを雲雀に任せ、ディーノは空を仰ぐ。
顔に冷たい雨が容赦なく降り注いでき、その金髪を頬にぴったりとくっつける。
「…かすっただけみたいだね」
「安心したか」
からかうようにディーノが笑う。
「っつ」
雲雀が無造作に傷口を捕んだ。
「何すんだよ…ってぇな」
「馬鹿なこと言うからでしょ」
自業自得というふうに雲雀が睨む。
「で、どうするの」
手当てをきちんとするのならは、雲雀の部屋でもディーノの屋敷にでも帰った方がいいのは明白だった。襲撃も先ほどの一回だけで、追跡がかかった気配もしない。
このまま雨の闇に紛れ込むのも、人通りがさして多くないとはいえ難しいことではない。
しかしながら、この襲撃のことがディーノの部下なり雲雀の仲間に伝わるのと、面倒を避けることは難しくなる。
この犯人の追及は遅かれ早かれされるとはいえ、そして襲撃者の追及は早急にした方が手がかりが多いことは分かっているのだが、今この瞬間から取り掛かりたいとはディーノは思わなかった。おそらくは、どこか三流マフィアの下っ端構成員が手柄をあせったあまりの暴挙だろうと組織の名前まで当たりを付けていた為でもある。
雲雀はというと、襲撃者の正体になど何の興味もない様子だった。
元来他人に対する興味が薄い性質なのだ。今回はたまたまその場に居合わせたから、襲撃を阻止しただけの話で、雲雀の知らないところでディーノが襲われても「馬鹿じゃないの」の一言で済ましてしまうような、そんな性質だとディーノは理解していた。本当のことを言うと、泣いて騒いで仇討ちでもしてくれればと思うけれども。
「そうだなぁ…」
まだ雨はやまない。
雲雀の髪も服も仕立てのいい服も濡れてしまっている。
「…しようか」
雲雀の耳元で囁いた。





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2月お題。
中途半端です。
R15の野望敗れたり。早っ!!
タイトルは某ミステリより。
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