それはとても暖かく




闇の中、腕に触る。
そこにあるはずの刺青をなぞるように指を動かす。
雲雀の気配がくずぐったいのだろうか。寝ているディーノは金髪を揺らしもぞもぞと体を動かした。
出会ってから日も浅いのに、何度目、と数えるのも面倒なほど、こんなことをしているけれど。
白く清潔な枕に頬を埋めた雲雀は、闇を見透かすよう空間の一点を凝視した。
流されて、なんとなく。
ただ、それだけのこと。


もう一度、ディーノの腕に触れた。

ディーノが雲雀の方へと寝返りを打ち、うっすらと目を開ける。
「きょう…や……?」
寝ぼけているのか、擦れている微かな声。
雲雀がさっと手をのけるのを見て、ディーノが気配だけで微笑んだ。
腕を雲雀に伸ばし、その小さな体を抱え込む。
いつもならば振り払う所なのに、どうしてだか、触れ合う肌の感触が心地よい。
雲雀は甘える猫のように、ディーノへと額を寄せた。
ディーノはきゅっと雲雀を抱く腕に力を込める。
「…したりない?」
笑いを含んだ声が雲雀をくすぐる。
雲雀は膝を曲げ、ディーノの足に触れる。
それが、答え。
くすりとディーノは頬を緩めた。
雲雀を腕に抱いたまま体を回転させると、覆いかぶさるように額にキスを降らす。
ディーノの下で雲雀がもそもそと動き、首を伸ばすように顔を寄せ唇を重ねる。
ちゅっ、という可愛らしい音をさせ二人の唇が離れる。
やや上方からディーノが雲雀を見つめる。
「恭弥…」
囁く名前には欲情の香りが立ち込めて。
喰むように雲雀の唇へと歯を立て、柔らかな肉を刺激していく。
「…ん」
唇の間に入ってくるディーノの上唇へと雲雀が舌先で触れる。そろりと押しやり、その存在を確かめる。息を継ぎ、横へと滑らすように舌を這わせる。
ディーノは雲雀の唇への甘噛みを止め、己の唇をなぞっている雲雀の舌の裏を自分の舌先で絡め取る。
くちゅり。
ディーノの誘いに乗るように、雲雀もディーノを絡め取る。
互いが互いを貪るように、二人は鬩ぎ合い、吐息がこぼれる。
唇の感覚が段々になくなり希薄になってくる。
雲雀はディーノの感触を求め、我知らず意外と筋肉質な背中に手を回していた。
応えるようにディーノも雲雀の頬を両手で挟み、雲雀の足を割るようにして体重をかける。
熱を帯びているディーノの中心が雲雀へと触れる。
「っ」
雲雀の背中がぴくりと動き、ディーノの背に廻した腕に力が入る。
絶妙のタイミングで離れた唇に互いの吐息が触れ合う。
「恭弥」
片手を雲雀の顎から胸へと滑らせながら、雲雀の名を呼ぶディーノの声が熱い。
その熱は雲雀にも及んできて、ディーノと触れている肌が溶けてしまいそうな錯覚に陥る。
なくなってしまいそうになる相手との境目を確かめるように、雲雀がディーノを引き寄せる。
顎をあげ、ディーノの唇をねだるかの如くうっすらと目を開ける。
ディーノは差し出された雲雀の唇に触れる程度のキスをして、そのまま頤へと唇を這わせつっ、顎をすべり降りて雲雀の首筋へと吸い付く。
「っ…ん」
びくり、と雲雀の下肢が揺れる。
「や…めて」
兆し始めていた雲雀自身をいつの間にかそこまで到達していたディーノの掌が、包むように握り込んでいた。
「やめない」
雲雀の目元を頬に充てた手の親指でなぞりながら、雲雀を握り込んでいる指先でその先端を刺激し始める。
「んっ……っく……」
ディーノの手の動きに合わせて、雲雀の体が跳ねあがる。
「ひゃっ…ぁ……」
ぼんやりとした体に施される局地的な刺激。
雲雀自身にもよく分からない感覚が襲ってくる。
ぎゅっと目を瞑った雲雀へ、ディーノがまた新たな刺激をもたらす。
ちゅっ、とディーノが雲雀の胸板を吸って離す。
胸の突起に感じる濡れた感触に雲雀が顎を引き己の胸元を見る。
雲雀の気配に気づいたディーノが、視線を投げかける。
唇だけで笑うと、雲雀を見据えたまま舌を伸ばして色づいているしこりをちょろりと舐める。
「んっ」
雲雀が息を飲み、ディーノの下で揺れる。
ディーノは雲雀の頬から手を流し、もう片一方の突起を摘み上げる。
「やっん……ん…」
舌先と指の腹とで雲雀の突起をころころと軽く撫でたり、強く押しつぶしたりする。
雲雀の呼吸がそのリズムに乗るように刻まれ、雲雀自身がディーノの掌でじゅくじゅくと蜜を滴らせ始める。
「あ…っ…ん……ディ…っ」
どこからともなく押し寄せてくる波に揉まれ、雲雀はディーノの髪をきゅっと掴んだ。
引き寄せられて、ディーノが雲雀の小さな突起を唇で挟む。
それを吸い上げ、歯を立てる。
「ディ…っ……ノ…」
雲雀が上半身を少し浮かし、ディーノの頭を抱え込んだ。
ディーノの掌から絶え間ない刺激を与え続けられている、雲雀の中心は、熱で膨張し、どくどくと蜜を生み出していた。
ディーノが顔を上げ、雲雀を見つめる。
「恭弥?」
「ん…」
問いかけるようなディーノへ、雲雀が息の抜けた返事を返した。
「…いい?」
雲雀の蕾へ、ディーノの雄が当たる。
「っ」
雲雀は息を飲み、それでも、小さくこくりと頷いた。
ディーノが雲雀から少しだけ離れるように体を浮かせ、雲雀の両足をやさしく押し開く。
「あ…」
露わになっているであろう己の姿を思い描き、雲雀がディーノから顔を背けた。
「恭弥、こっち見て」
ディーノは雲雀の右手を先刻まで胸元をまさぐっていた左手で取る。
雲雀の指を開くように、ディーノの指が絡みつく。
二人の手が重なり、手を組み合わせる。
「ディーノ…」
何かを恐れ、何かを期待するような、感情の複雑な混合物が雲雀の瞳の中に顕れる。
「楽にして」
雲雀の手を握りしめ、囁いた。
くいっと、雲雀に触れている雄の先端をまだ開ききっていない蕾へと進入させていく。
「っ」
絶対的な質量の進入に雲雀の体が縮こまる。
「恭弥」
雲雀の頬へ、ディーノが唇を寄せた。
「まだ、慣れない?」
困ったように微笑むディーノの吐息がどこか甘く。
「だ…いじょう……ぶ……」
だから、と消えるように雲雀が目を閉じディーノに体を預けた。
「好きだよ」
「バっ…」
雲雀の言葉は無音の声に取って変わる。
ディーノは己の侵入と同時に、きゅっ、と蜜を滴らせている雲雀自身を掌で扱う。
「あ…ぁん……や………」
雲雀とディーノの間で、雲雀の熱が破裂する。
身の置き所がないかのように雲雀がディーノの下で体をびくびくとさせ。
「恭…弥」
二人の間で、雲雀の放出した蜜が卑猥な音を立てている。
「や…だ……」
言葉とは裏腹に、雲雀がディーノの肩甲骨へ手を這わし、
「んっ」
軽く息を継ぐと、雲雀の中で小刻みに動かしていた雄をずるりと抜き出し、もう一度深く穿つ。
「っく…ひゃっ………ぁ」
ディーノの容積が更に増しているのを感じ、雲雀はきゅっとディーノの肌に爪を立てる。
肉を抉るような痛みに、ディーノは眉を顰め、それでも雲雀の目を見ながら唇の動きだけでその名を呼ぶ。
「も…や、っん……ん」
ディーノに揺り動かされ、雲雀も無意識の裡に動きをシンクロさせていく。
どちらのものか分からない欲望の証がぐじゃぐじゃに混じり合う。
唇を半分だけ開き、やっとの呼吸をしていた雲雀がディーノに視線を流す。
「キ…ス……し」
雲雀が言い終わる前にディーノは唇を塞いだ。
ぴたりとくっついた二人の肌から生じる熱にうかされるように、互いの唇を貪る。
「く…っん」
ぎゅっと目を閉じた雲雀の視界の中で、空が降ってくる。
「きょ…うや」
不意に己を締め付ける雲雀の中でディーノが限界を迎え…。
雲雀から唇を離すと、奥歯をかみ締めた。
一瞬の緊張。
そして、次の瞬間には二人の体は弛緩して、互いの境目が段々とはっきりしてくる。
「恭弥…」
まだ弾む息の元、ディーノが名残惜しそうに雲雀の髪を撫でる。
雲雀はぷいと、横を向き、うっそりと目を閉じた。
そんな雲雀をディーノは微笑んで見つめ、きゅっと両腕で抱きしめる。
「や…」
軽い拒否の言葉を無視して、足も絡める。
「ちょっとこのままでいさせて」
「………ばかじゃない…」
そう呟き、雲雀はディーノに抱かれた姿勢のまま体を丸めた。


どうしてこんなことをするのか。
その問いに答えはなく。
でも、もしかしたら、このぬくもりと離れ難いのかもしれない。
それがとても心地よいものだと知ってしまったから。

バカみたいだ、と思いつつ雲雀は眠りへと落ちていった。