束縛の甘さ



「捕まえた」
表情も変えずに雲雀が言った。
雲雀の手には、光る手錠。
その先には、ディーノの腕がかっちりと嵌っていた。
自分の腕を見、ニヤリと不敵に笑った。
「どう、これで分かったでしょ」
微かに怒っているようにな口調で、手錠のパワーをアップさせる。



「恭弥。お前はまだこいつの本当の力を出し切れてない」
ディーノがボックスを雲雀へと差し出した。
「……どういうこと?」
瞬時にして剣呑な殺気を発し、雲雀が問い返す。
「まだまだ、特訓の余地があるってことだ」
ディーノはふわりと笑い、それは初めて雲雀と会った時と変わらぬ、面白そうな悪戯を企む少年のような笑みであった、雲雀へとボックスを投げる。
「十分以内に俺を捕まえられたら、お前の勝ちだ」
そう言い放ち、ディーノは雲雀の前から走り去っていく。
揺れる金髪を雲雀は見つめる。
「面白くなかったら、噛み殺すから」
殺気を更に膨らませ、ボックスの能力を発動させつつ、雲雀は逃げていくディーノを追った。


ディーノは手錠によって束縛されている手と反対の腕にはめている時計を確認する。
「九分十三秒……か」
その言葉を聞き、雲雀は唇だけで微かに笑った。
「まぁまぁ、だな」
次のディーノの言葉を聞いた瞬間、雲雀の笑みが凍りつく。
「何か問題でも」
努めて冷静を装うとしているが、言葉の底に怒りが見え隠れしているのだ。そんな雲雀を宥めるようにディーノはちょっと首をかしげ、だが、そんなディーノの行為すらも雲雀の怒りを煽るだけであったが、束縛されている手首を雲雀の目前へと掲げると、左右に揺らした。
そして、今までの様子から一転し、ディーノの闘気が膨れ上がった。
ほんの一瞬。
だが、その瞬間、手首を束縛していた雲雀の手錠が粉々に砕け、キラキラと宙へと舞うようにして消えていった。
「な……ん、で」
雲雀が驚きの表情で眉を顰める。
一体、何故。
自分の能力の使い方に問題はなかったはずだ。
「さぁな」
だが、ディーノは雲雀の問いに答えず、笑っている。
「もう一度」
挑むような視線で雲雀がディーノを見つめた。
大きな壁が立ちふさがれば立ちふさがるほど、雲雀の能力は目覚めていく。ここ十年のうちに、そのことをディーノは何度も実感した。
「必ず捕まえてみせるから」
きっと雲雀が黒い双眸でディーノを睨みつけた。
視線をいなすようには目を細める。
とても美しい、瞬間。
「いいぜ。捕まえてみろよ」
体を翻し、ディーノが走りだす。

――とっくに、出会った時からお前に捕まえられてるけどな。

そう、心で呟きながら。


20091101