◆ the dancing Incubus in the cold closed room ◆ ベッドに横たわる少年が、ゆっくりと目を開けた。 ここはどこだろうと、ぼんやりとしている頭で考えているのだろうか。 視線を漂わせ、そして首をゆっくりと傾けた。 数度目を瞬かせ、反対側を見る。 しかし、辺りは薄暗く、はっきりと場所を特定することかが判断できないようだった。 頭の奥がまだぼんやりとしているのだろう。 体もだるく、微かな痺れがあるはずだ。 少年は額に手を遣ろうとして。 「…?」 自由が利かないことに気づいたようだった。 手を引っ張る。 ある程度の所まで移動すると、手首に圧迫感が走り止る。 顎をあげ、己の手首を見る。 苦しい姿勢だが、なんとか観察ができた。 「なっ…」 少年は絶句する。 手首には白い布、のような強靭な繊維が巻きつきそれがベッドの端に結ばれているのだ。 もう片方を見ると、こちらも同様。 左右それぞれの手が、左右それぞれの端へと開かれている。 まさか。 と思い、少年は足を曲げた。 こちらは自由に動くようだ。 とにかく、手の戒めを解くことが先決だ。 そう判断した少年が起き上がろうとした時。 ガチャガチャと鍵でも開けているような、否、鍵を自分が開けている音がする。 少年は急いで自由を得ようと体を捻る。 ノブが回され、ギギギと嫌な軋みを立てドアが開いた。 ドアを開いたシャマルは、少年と目が合った。 その瞬間、浮遊していた、少年を俯瞰的に見ていた意識がすっとシャマルの体の中へと全て入り込み、そうかこれは俺であれは隼人だ、という認識がなされた。 そして、この現実は、現実ではないということも理解した。 「シャマル…?」 少年、隼人の目が怪訝そうにシャマルを見つめる。 「ああ、俺だ」 ゆっくりと、相手に威圧感を与える最も効果的な速度で、シャマルがベッドへと歩み寄る。 「目が覚めたのか」 独り言にしては大きな声で、しかし体を起こそうともがいている隼人に確認するわけではない音量でシャマルが言う。 「何の真似だよ」 やっと苦しいながらも上半身起き上がらせた隼人の傍にシャマルが座る。 ギシリとベッドが音を立てた。 「さて、隼人」 シャマルが頬を上げるだけの陰惨な笑みを浮かべ、隼人の頬を撫でる。 ビクリ、と隼人が身を固くする。 「そんなに恐がるなよ」 くつくつと笑う。 身を引こうとする隼人に向かい、 「そそられるだろ」 と、もう一度笑いかけた。 隼人の膝へ馬乗りになり、その色素の薄い髪を掴む。 「っ」 髪の引っ張られる瞬間的な痛みに隼人の顔が歪んだ。 そんな隼人に構うことなく、シャマルが口付けをする。 しかしながらその行為は口付けなどという生易しい行為ではなく、隼人を貪り食わんとするようなそんな荒々しさがあった。 必死に侵入を防ごうと抵抗する隼人の髪をシャマルが引っ張り上げる。 「うっ」 うめき声を上げた拍子に、シャマルの舌が隼人の唇を割ってねじ込まれた。 舌を数回絡ませてやると、徐々に隼人の抵抗がゆるくなってきた。 それでも、頭を逸らせて逃げようとする隼人のその頭をしっかりと自分の方へ向けて固定する。 ぐちゃぐちゃという唾液の絡まり音が、他になんの音もしない部屋に響く。 「…っく…ん」 息を継ぐ隼人の口元から、透明な糸が垂れる。 バランスを取るためにベッドに突いていた手で隼人の細い頤を掴む。 無理に開かせた口腔へと、深く、シャマルが侵入する。 「…ん……っ」 声もない悲鳴をあげ、隼人が執拗に追ってくるシャマルに捕まえられないよう舌を蠢かす。 その行為さえもシャマルの本能を煽り立てるということさえ知らず、懸命にこの突然始まった陵辱から逃れようと…。 「ぅう…」 シャマルが隼人の顎を掴む指へと力を篭める。 だらだらと、滴り落ちる唾液がその指を濡らしていく。 ぺちゃりぐちゃりと止むことのない粘膜の接触。 段々となくなる唇の官職。 崩れ消えてしまいそうになる、隼人の意識。 不意に隼人の頭からシャマルの支えが外され、隼人が少しだけ後ろへとよろめく。 「…っ」 器用にバランスを取りながら布で結わかれた手で体を何とか支える。 シャマルは隼人の呆然とした表情を一瞥した。 その冷ややかな視線に、隼人の表情が固まる。 ギシリとベッドのスプリングを鳴らし、シャマルが隼人の両足を挟むように膝立ちになる。 そして、ズボンのベルトをカチャカチャと外し、ジッパーを下ろす。 「な…」 目の前で繰り広げられる映像が信じられないのか、隼人が息を飲み、これから起こるであろうことを思い、シャマルから遠くへと後退さろうとした。 しかし、それはバランスを崩すだけの結果となり。 「舐めろよ」 シャマルは臆面もなくたぎり始めているシャマル自身を取り出し、隼人の目前へと腰を寄せる。 「何言ってンだよ」 「は?」 顔色を青くし、しかし台詞だけは威勢の良い抗議をする隼人を、シャマルが目を半眼にして見下ろした。 一瞬シャマルの視線にたじろいた隼人だったが、シャマルを睨みつけながら言葉を追加する。 「バカなこと言わないで、これを解けよ」 シャマルは己の顎を一撫でし、隼人へと顔を近づける。 「それはできねぇな」 「何でだよ」 「何でって…」 震える声を懸命に隠そうする隼人へ、これ以上ないくらい優しげな微笑を向ける。 「だって、お前はそのためにここにいるんだろ」 ぐいっと掴まれ、引き寄せられる隼人の頭。 薄暗い部屋のはずなのに、何故だかその髪がきらりと光った。 シャマルに無理やり掴まれた頭を隼人が振り、シャマルのそれから逃れようとする。 「ったく。聞き分けのないヤツだな」 ため息と共に勝手なことを言い、シャマルがぐいと隼人の中心を握る。 「うっ」 「お前だって感じてんだろ」 強く揉みしだくと、隼人が顔を歪める。 顔を歪めさせた原因が、決して苦痛だけではないことは隼人自身が肥大化したことにより伺い知れた。 ぐりぐりとシャマルが隼人を刺激する。 「やめろっ」 擦れた声に、艶が滲んできて。 「こんなに反応してるじゃねぇか」 更に、シャマルが手荒く扱うと、面白いように隼人自身が反応を示す。 と、不意にシャマルがそこから手を退ける。 隼人が、思わず、シャマルへと目を向けた。 その瞳に失望の色が浮かんでいるのを、シャマルは見逃さず、 「続きをして欲しかったら、こっちが先だ」 ニヤリと唇を吊り上げ隼人を睥睨する。 隼人の眉がきゅっと寄り、ゆっくりと目を閉じる。 短い一瞬。 開かれたその瞳は欲情に濡れていた。 差し出されたシャマル自身へと、隼人が舌先で触れる。 肉体の生々しさに隼人の肩が震えた。 「そのまま舐めろよ」 隼人の頭をシャマルがぐいと引き寄せ、命令を下す。 微かに躊躇した隼人だったが、息を吸い、唾を飲み込みと、薄く目を閉じシャマル自身へと再び舌を這わす。 ぺろりと先端を舐める。 数度、同じ事を繰り返す。 「隼人。そうじゃねぇだろ」 シャマルの声に、隼人の動きが止まる。 「もっと舌全体でやれよ」 その言葉に隼人は極限まで舌を伸ばし、シャマルへと触れる。 「唇も使えよ」 シャマルの指示を忠実に実行し、隼人が唇を這わす。 唇を滑らすように強張っているシャマルを嘗めあげていく。 「んっ…」 時折、鼻にかかった息を吐き出し、懸命にシャマルへと奉仕を続ける。 暫く黙って隼人を見下ろしていたシャマルだったが、「ったく」と舌打ちをし、 「隼人、口を開けろ」 と自身を離す。 透明な糸を引いたまま、隼人が言葉通り口を開いた。 「歯、立てるなよ」 言うが早いか、シャマルが己を隼人の口へと突っ込んだ。 「っく…ん…」 突然のことに喉が詰まりそうになった隼人が、顔を赤く染める。 「下手なのは分かったから、とりあえずさっきみたいに舐めてろよ」 シャマルは隼人の肩に手を置き、ゆっくりと腰を前後に揺らす。 「んっ、むっ…ン」 突如動き出した塊に、隼人がそれでも懸命に舌を使う。 「隼人、もっと舌を動かせよ」 「ぅ…はっ……う」 顔を真っ赤にし、隼人が目を閉じる。 じゅぶじゅぶと口腔を犯される刺激に、隼人自身も疼き出す。 「そう…もっと唾液を絡ませ、ろ」 シャマルが心持ち動きを早める。 「んっ…ふ…っ」 上顎にそれを擦りつけられ、隼人の開いたままの唇からは唾液なのかシャマル自身から染み出す欲望の水なのか、それらが混ぜこぜとなった液体が滴り落ちてくる。 「隼人」 シャマルが隼人の名を呼んだ。 その、今までとは少しだけ違う、錯覚かもしれないがそう思える声音に、隼人が上目使いでシャマルを見上げる。 「いい顔だ」 シャマルは息を荒げながら隼人の髪を掴む。 余裕のなくなりつつあるシャマルの表情に、ずくん、と隼人の下腹が波打ち、下肢をもぞもぞとさせる。 「お前も、いきたいか?」 ズボンの中で大きく膨らんだ隼人の欲望に気づき、シャマルが片手で器用に服をゆるめる。 肌着を少しどかしてやると、先端から蜜をあふれ出している隼人自身が立ち上がる。 ちろりと掬い上げるようにシャマルが触れる 「んっ」 隼人の体が痙攣する。 シャマルが隼人自身を握り、先端を指で押す。 「っん、ん」 隼人が前のめりになり、自分の口蓋へと大きくシャマルを飲み込む。 「ほら、こんなに溢れてるぞ」 意地悪な表情で、シャマルが隼人を扱う。 刺激を、もっとと欲した隼人が、シャマルのリズムにあわせて体を動かす。 そんな隼人を見下ろし、シャマルが笑う。 「…そろそろ、だな」 シャマルが動きを止め、隼人自身からも手を離す。 「っ」 隼人が潤みきった目を、非難するようにシャマルへと向けた。 「先に、こっちを飲んでからだ」 シャマルがさわりと隼人の前髪に触れ、突き上げるように隼人の口腔へと自身を入れる。 シャマルの体が震え、欲を放つ。 「…んっ……ん」 口中一杯に溢れるシャマルの欲に、隼人はどうしていいのか分からず、苦しげに顔をゆがめる。 勝手に喉へと入り込む液体にむせそうになりながらも、必死に嚥下する。 しかし、飲みきれない白い欲望が唇から溢れ出し、だらだらと流れ落ちる。 数度大きく痙攣し、欲を放ちきったシャマルが隼人の口から濡れきった自身を引き抜いた。 ごふっ、と隼人が体を折り、だらりとシャマルの欲を吐き出した。 「…ちゃんと飲めって言っただろ」 隼人の顎を掴み、シャマルが目を細める。 「う…る、さい」 流れ落ちる液体を拭いたくても拭えない気持ち悪さと、どうにかなってしまいそうな自身の欲望とをなんとか振り切り、隼人がシャマルを睨みつけた。 「ふぅん。まだ、余裕じゃないか」 シャマルが、隼人の顎を持ち上げる。 「言うことを聞かない子供は、お仕置きが必要だよな」 独り言のように呟き、ふわりと笑う。 「楽しませてくれよ、隼人」 |