New Year under the Moon




部屋においてある、年代物の置時計が、午前零時の鐘を打つ。
「…年が明けたのか」
一人、広い部屋で仕事を片付けていた獄寺が、ペンを止め、そのほんの少しの感慨の込もった声が静寂に消える。

ルルルルル。…。ルルルルル。

机の上にある外見だけはクラシックな、その実最先端の技術が集約されている電話が、これだけは昔から変わらない音を響かせる。
獄寺はじっと電話機を見つめ、数回コールを聞き手を伸ばす。

「…プロント」
「Buon anno.」

慣れ親しんだ、しかし暫く聞いていなかった低い声が機械の向こうから。

「Felice…buon 、…anno.」

獄寺は喉が詰まりそうになりながら、やっと新年の挨拶をする。

「…元気か?」
隼人、と名前を呼ばれる。

「ああ。…皆、元気だ」

シャマルは?と問い返したくても、それはできなかった。
時折、かかってくる一方的な電話だけが、彼が今もどこかで生きているという証で。

「そうか、それは良かった」

穏やかに答える息遣いすらも、懐かしくて、そして。

「…じゃ、…っ…、切るぞ」

向こう側で、シャマルがくすりと笑った気配がする。

「泣くなよ」

その声はどこまでも優しく。
出会ったあの頃と何の代わりもなく。

「泣いて、ねぇよ…」

答える獄寺も彼の前では昔のまま。

「泣いてンだろ」
「泣いて、ないって」

言ってんだろ、という獄寺の言葉と共に、扉が開いた。

「えっ…」

入ってきたのは、電話をしてきた男。

「なーんだ。やっぱ、泣いてるじゃねぇか」

耳に当てていた携帯電話を外し、ボタンを押す。
同時に、獄寺の持つ受話器から、ツーツーという機械音が流れ始める。

「な…んで」

機械音が流れるままの受話器もそのままに、獄寺がシャマルを見つめた。
シャマルは獄寺の隣までやってくると獄寺の手から受話器を取り、それを電話機へと戻した。
そして、

「んな、幽霊でも見るような顔すんなよ」

身を屈めると、そっとキスをする。
一瞬触れ合うだけの、それでも、ただの挨拶とは違う、キス。

「これで、信じられたか?」

獄寺からゆっくりと離れ、シャマルがニヤリと笑う。
それでも、呆然としたままの獄寺だったが、はっとした顔になり、

「何すんだよ」

ガタリと椅子から立ちあがる。
ほんの少しだけ、悔しいことに見上げてシャマルを睨み付ける。

「何って、新年の挨拶だよ」

そう、嘯く。
獄寺の目尻をそっと拭った。

「にしても、相変わらず口が悪いな。右腕」
「いつもはもっとちゃんと話してるんだよ」
「だったら、いつも通り話せよ」
「仕事中じゃないからいいんだよ」

ぽんぽんと言葉が出てくる自分が、獄寺は不思議だった。
もう、何ヶ月も会っていないのに、そんなことを全然感じなくて。

「そうか、仕事は終わりか」

意味ありげに笑うシャマル。
それじゃぁ、と続ける低く擦れた声。

「ここからはプライベートだな」

シャマルが獄寺を抱きしめた。
力強くて、暖かくて。
ここに、ちゃんとシャマルがいる、リアルな感触。
獄寺がぱさりとシャマルの肩に顔を埋めた。
そうしないと、また泣いてしまいそうだったから。






「なぁ、隼人」

シャマルに寄りかかるようにソファに座っている獄寺の肩を抱くように廻した手で、銀色の髪を弄ぶ。

「知ってるか?」

獄寺が翡翠色の瞳をシャマルへと向ける。
その瞳へ微笑む、こげ茶色の目。

「1月1日にやったことは、一年中続くんだと」

だから、と獄寺の耳元を擽る。
獄寺は何ともいえない表情になり、

「死ねよ…エロ医者」

と、小さく言う。
シャマルは悪態に笑いながら、獄寺の頬を両手で挟んだ。


「死なないよ」



新しい年へ向けて、ゆるやかに。
夜が明けていく。





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シャマ獄新年Ver.です。
シャマルは風来坊で一所に定住してないので、
ごっきゅんは思い出すと心配?みたいなmy設定があります(笑)。

020108

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