白い恋人未満たち




よっし。決まった!
椿大介はゴール決め、満面の笑みを浮かべていた。
次、次。
はやる気持ちを走る速度に乗せ、中央ラインまで戻った。
「あ、終わっちゃった」
だが、そこにはボールはなく、椿は薄暗い中でゴールを見つめる。今日のイメージトレーンングのために用意したボールは全て使い果たし、ゴールポストで転がっている。
もう少し、練習しようかな…。
考えながら佇んでいる椿の頭に衝撃が走った。
「イテっ」
頭に手を遣り、辺りを見回す。
ボールがもう一つ飛んできた。それを頭で受け勢いを殺す。勢いを殺されたボールは重力の法則に従いつつも弧を描きながら地面へと落ちていく。椿は足を伸ばし、甲で受け、ポンと軽く蹴りあげた。
そのボールを手で捕まえる。
「お見事」
「お、王子っ」
ぱちぱちと拍手をしながら現れた人物を見、椿は驚いた。
「あー、寒いね」
襟を立てたコートにマフラーを巻いたジーノが肩を竦めた。
その言葉にどう反応していいのか分らず、じっとジーノを見つめる椿に向い、困ったとでもいうようにジーノは笑みをこぼした。
「でも、君は寒いのに元気だねぇ」
ふぅ、と吐き出すジーノの息が白い。
「あ、はい」
やっとのことで返事をした椿の息も白かった。
一生懸命になっていて気付かなかったが、確かに寒い。
それもそのはずだろう。12月の夜のグラウンドなのだ。
汗の引き始めた肌は冷たさを吸い込んでもいた。
「あの……」
片手をコートのポケットに入れたまま、ジーノは前屈し転がっているボールを手袋をした手で掴んだ。
そして、椿に向って投げる。
椿は持っていたボールを落とし、投げられたボールを受け止めた。
「何、ぼーっとしているの」
「え?」
「早く片づけなよ」
「あ……」
椿はもう少し練習をしたい気もし、少しだけ微かに眉を顰めた。
そんな椿の傍にジーノは歩み寄ると、やれやれという表情で溜息をついた。
「バッキー。今日が何の日かまさか知らないのかい?」
「え?」
自分を見つめる椿の視線の真っすぐさに、ジーノは微笑み。
「本当に君はサッカー馬鹿なんだね」
せっかく何も予定がないから遊んであげようと思ったのに、と肩を竦めた。
「え? ……あっ!」
そこまで言われてやっと、鈍い椿も思い至った。
今日は12月24日なのだ。
今まであまりにも自分には関係のない年間行事だったため、すっかり忘れていた。
「あの、すぐに帰る支度します」
「そ。それじゃ、僕は車で待ってるから」
慌ててゴール周辺に散らばるボールを集めようと走り出す椿の背中に向いジーノは言った。
本当に手間のかかることだと思い、そのことに秘かな満足を覚えながら。





゜..。*゜.・。…*゜..・.゜*。.
ベタにクリスマスです(笑)。
バッキーはとてつもなく鈍いといいと思う。
そしてジーノがやれやれと思いつつ振り回せばいいと思う(笑)。
081223
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