◆白い恋人未満たち◆ よっし。決まった! 椿大介はゴール決め、満面の笑みを浮かべていた。 次、次。 はやる気持ちを走る速度に乗せ、中央ラインまで戻った。 「あ、終わっちゃった」 だが、そこにはボールはなく、椿は薄暗い中でゴールを見つめる。今日のイメージトレーンングのために用意したボールは全て使い果たし、ゴールポストで転がっている。 もう少し、練習しようかな…。 考えながら佇んでいる椿の頭に衝撃が走った。 「イテっ」 頭に手を遣り、辺りを見回す。 ボールがもう一つ飛んできた。それを頭で受け勢いを殺す。勢いを殺されたボールは重力の法則に従いつつも弧を描きながら地面へと落ちていく。椿は足を伸ばし、甲で受け、ポンと軽く蹴りあげた。 そのボールを手で捕まえる。 「お見事」 「お、王子っ」 ぱちぱちと拍手をしながら現れた人物を見、椿は驚いた。 「あー、寒いね」 襟を立てたコートにマフラーを巻いたジーノが肩を竦めた。 その言葉にどう反応していいのか分らず、じっとジーノを見つめる椿に向い、困ったとでもいうようにジーノは笑みをこぼした。 「でも、君は寒いのに元気だねぇ」 ふぅ、と吐き出すジーノの息が白い。 「あ、はい」 やっとのことで返事をした椿の息も白かった。 一生懸命になっていて気付かなかったが、確かに寒い。 それもそのはずだろう。12月の夜のグラウンドなのだ。 汗の引き始めた肌は冷たさを吸い込んでもいた。 「あの……」 片手をコートのポケットに入れたまま、ジーノは前屈し転がっているボールを手袋をした手で掴んだ。 そして、椿に向って投げる。 椿は持っていたボールを落とし、投げられたボールを受け止めた。 「何、ぼーっとしているの」 「え?」 「早く片づけなよ」 「あ……」 椿はもう少し練習をしたい気もし、少しだけ微かに眉を顰めた。 そんな椿の傍にジーノは歩み寄ると、やれやれという表情で溜息をついた。 「バッキー。今日が何の日かまさか知らないのかい?」 「え?」 自分を見つめる椿の視線の真っすぐさに、ジーノは微笑み。 「本当に君はサッカー馬鹿なんだね」 せっかく何も予定がないから遊んであげようと思ったのに、と肩を竦めた。 「え? ……あっ!」 そこまで言われてやっと、鈍い椿も思い至った。 今日は12月24日なのだ。 今まであまりにも自分には関係のない年間行事だったため、すっかり忘れていた。 「あの、すぐに帰る支度します」 「そ。それじゃ、僕は車で待ってるから」 慌ててゴール周辺に散らばるボールを集めようと走り出す椿の背中に向いジーノは言った。 本当に手間のかかることだと思い、そのことに秘かな満足を覚えながら。 |