◆ファンブックにまつわる小さな秘密◆ 「みんな、公式ファンブックができたわよ」 一人一人メンバーに手渡しながら動きまわる有里の元気な声が響き渡った。 「はい。椿君」 にっこりと笑って本を手渡された。 ずっしりとした重さが掌に伝わってくる。 「ありがとうございます」 「椿君、写真よく撮れてたわよ」 笑いながら部屋から出ていく有里の後姿を見送り、椿は本を見て微笑んだ。 「何だい、バッキー。一人でニヤニヤしてるんだい?」 「うわぁ」 不意に肩に腕を巻きつかれ耳元で囁かれる。 「王子?!」 「嬉しそうだね、バッキー」 ジーノの方を向いた椿が慌てて顔を背けた。 ……どきどきした。 ジーノの端整な顔が近すぎて、そして、耳元で囁かれる声がくすぐったくて。 「はい。俺、初めてなんです」 「……初めて?」 少し顔を離してジーノが問い返した。 「はい。サテライトから上がってきて、初めてのファンブックなんです」 じっ、と熱っぽい視線を本に遣ったまま話す椿の横顔をジーノは見つめた。 なんという、嬉しそうな顔をしているのだ。 ジーノはちょっと微笑み、ぎゅっと体重をかけるようにして椿から本を奪い、肩に廻した手で広げた。 「へぇ。どれどれ」 「あ、王子っ」 椿のどうしていいのか分からない悲鳴を無視し、ジーノは椿の肩に顎を乗せるとぺらぺらとページをめくり始めた。 ジーノの手の動きが止まる。 「椿大介。身長174cm。体重65kg。ポジション、MF」 「王子……」 「何?」 「あの……恥ずかしいっス」 「僕は恥ずかしくないけど」 ジーノはくすりと笑い、まぁ、バッキーがそう言うならやめといてあげるよ、と本をぱたんと閉じる。 椿が肩で息を吐いた。 少し、気持ちを落ち着かせるように、じっと、表紙を見つめ、手で撫でた。 ゆっくりとページを手繰っていく。 王子だ……。 本の中から笑いかけるジーノの姿。 不意に、蘇る、耳元の囁き、その吐息のくすぐったさ。 「ぁっ」 一瞬にして、椿の体温が上がる。 慌てて本を閉じる。 心臓へと当てた掌に、どきどきが伝わってきて、椿は何故か狼狽した。 090111
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