ファンブックにまつわる小さな秘密




「みんな、公式ファンブックができたわよ」

一人一人メンバーに手渡しながら動きまわる有里の元気な声が響き渡った。

「はい。椿君」

にっこりと笑って本を手渡された。
ずっしりとした重さが掌に伝わってくる。

「ありがとうございます」
「椿君、写真よく撮れてたわよ」

笑いながら部屋から出ていく有里の後姿を見送り、椿は本を見て微笑んだ。

「何だい、バッキー。一人でニヤニヤしてるんだい?」
「うわぁ」

不意に肩に腕を巻きつかれ耳元で囁かれる。

「王子?!」
「嬉しそうだね、バッキー」

ジーノの方を向いた椿が慌てて顔を背けた。
……どきどきした。
ジーノの端整な顔が近すぎて、そして、耳元で囁かれる声がくすぐったくて。

「はい。俺、初めてなんです」
「……初めて?」

少し顔を離してジーノが問い返した。

「はい。サテライトから上がってきて、初めてのファンブックなんです」

じっ、と熱っぽい視線を本に遣ったまま話す椿の横顔をジーノは見つめた。
なんという、嬉しそうな顔をしているのだ。
ジーノはちょっと微笑み、ぎゅっと体重をかけるようにして椿から本を奪い、肩に廻した手で広げた。

「へぇ。どれどれ」
「あ、王子っ」

椿のどうしていいのか分からない悲鳴を無視し、ジーノは椿の肩に顎を乗せるとぺらぺらとページをめくり始めた。
ジーノの手の動きが止まる。

「椿大介。身長174cm。体重65kg。ポジション、MF」
「王子……」
「何?」
「あの……恥ずかしいっス」
「僕は恥ずかしくないけど」

ジーノはくすりと笑い、まぁ、バッキーがそう言うならやめといてあげるよ、と本をぱたんと閉じる。
椿が肩で息を吐いた。
少し、気持ちを落ち着かせるように、じっと、表紙を見つめ、手で撫でた。

ゆっくりとページを手繰っていく。
王子だ……。
本の中から笑いかけるジーノの姿。
不意に、蘇る、耳元の囁き、その吐息のくすぐったさ。

「ぁっ」

一瞬にして、椿の体温が上がる。
慌てて本を閉じる。
心臓へと当てた掌に、どきどきが伝わってきて、椿は何故か狼狽した。


090111








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