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「やったー!!」
「勝ったよ。勝ったんだよ、後藤君」
オーナールームに響く、会長と副会長兄弟の感激の声。
体をのめらせるようにピッチを覗き込む後藤も、驚きと嬉しさとを満面に浮かべ、「ええ、やりました。勝ったんです」とまるで自分に言い聞かせでもするかのように、繰り返し呟いていた。
そして、ピッチから集まり、転がり、抱き合い、喜んでいる選手たちの姿を見降ろす。
きっと、選手たちも、自分たちが勝ったということが信じられず、仲間と喜びを分かち合うことで、実感を確かめているのだろう。
後藤の見守る中、達海が選手たちへとゆっくりとした足取りで近づいていく。
選手が気づき、達海の傍へと駆け寄ってきた。
そして、気負いのない動作で達海と抱き合い、喜び合う。
多分、ETUは選手と監督との距離が他のチームよりも近いのだろう。年齢的な意味合いでも、精神的隔たりに関しても。
彼らは仲間なのだ。
選手だけでなく、監督もコーチも。
そして、今後藤の後で喜び合っている会長兄弟や観客席にいる有里も、サポーターも。
じっと食い入るようにピッチを見つめた。
選手たちが達海を囲み、喜び合っている。
達海の顔は本当に嬉しそうで……。
チクリ、と胸が痛み、後藤は顔を顰めた。
嬉しい。
嬉しいはずだ。
チームが勝ったのだ。
なのに……。
後藤は眼を閉じ、胸に手を当てた。
一瞬感じた痛みは消えたように感じたが、心のどこかで、まるで見えない暗渠の底のような場所で何かがチクリと疼くのだ。
自分を落ち着かせるために、深呼吸をし、もう一度ピッチを見降ろした。
喜びが一段落したのか、選手たちが達海から離れ、サポーターの方へと向かい走っていく。どの顔も喜びに溢れ、疲れきっているはずなのに、元気よく走っている。
懐かしい、記憶が後藤の脳裏に浮かんだ。
自分が体験した勝ち試合の記憶。
自分が体験したはずなのに、不思議と俯瞰的なイメージで、今いるこの場所から見下ろしているかのような映像だった。
そして、その映像の中の達海は今よりも若く、仲間に囲まれ嬉しそうに、それでいて、勝手当然というように笑っていた。
「後藤君っ」
副会長に背中を叩かれ、後藤は我に返った。
「どうした、ぼうっとして」
少しばかり心配そうに会長が後藤の顔を覗き込んできた。
「あ、いや。嬉しくて」
「そうか」
そう笑った後藤に、会長は安心したのか嬉しげな顔をし、「やったな、後藤君」と彼の肩へと手を廻した。
後藤は、もう一度ピッチを見つめる。
後姿だけでも、達海の満足そうな笑みを後藤は想い描くことができた。
不意に、達海がふわり振り返った。
そして、上を、後藤の方を向き、親指を立て握った手を彼へ向けて挙げて見せたのだ。
後藤は一瞬目を見開き、泣きそうな顔で達海へと笑いかけ同じ動作で合図を返した。
勝ったのだ。
「やったな……達海」
その時、後藤も勝利を実感し、先刻とは違う感情が心の底から湧き起こってくるのを感じた。


090405








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