仲良しさん。




世良と堺が外に出ると、丁度ジーノの愛車が低い爆音を響かせ出て行くところだった。
「うわぁ。やっぱカッコいいっスね」
目を輝かせ世良が、「椿のやつ、カッコいい車に乗せてもらえてラッキーっスよね」と堺を見上げる。
「だったら、今度ジーノに乗せてもらえよ」
「えっ? 無理っスよ。」
「何でだよ?」
「俺、王子とあんま仲良くないっスから」
真剣に手をパタパタと振る世良を堺は面白そうに見降ろす。
「ていうか、やっぱ、椿って王子と仲がいいっスよね」
ちょっと拗ねたように、唇を尖らす世良。
そんな世良の頭を堺はぱふっと叩く。
「仲がいいのは、いいことだろうが」
「そうなんっスけど」
「けど?」
むー、っと考え込み、世良が頬を膨らます。
「椿のヤツはあんま王子と仲がいいって思ってるわけじゃないみたいで」
「はぁ?」
いまいち世良の拘り所を読み切れなくて、堺も渋面になってしまう。
「だから、……うー」
本格的に頭を抱え込みそうな世良の肩を、堺がぽんと叩いた。
「あ。そうっス。そうなんっスよ」
不意に、世良が堺を見上げる。
「ん?」
「あの二人って、仲がいいのに、ダチってかんじがしないじゃないっスか。だから、なんか、ヘンなかんじなんっスよ」
「変なかんじねぇ」
世良の言いたいことはよく呑み込めないが、呑み込めないなりに何となく分らなくもない。なんとなく、ではあるのだが。
そうなんっス、ヘンなんっス、いっつも一緒に帰ってるし、とそれこそ変な言い回しで言い続ける世良に、堺は少しだけ意地悪をしたくなってしまい……。
「世良さぁ。俺とお前は仲がいい友達なわけか?」
「へ?」
「いつも一緒に帰ってるだろうが」
ふぅ、と溜息をつき、堺はちらりと世良を見る。
「え? 堺さんと俺っスか?」
「そうだよ」
とても難しい数学の証明問題を前にした受験生のように黙りこくってしまう。
「や、ダチっていうか、……俺、堺さんのこと尊敬してるっスから」
「尊敬……ねぇ」
少しだけ半眼になって見下ろす堺と目が合った世良は、ひどく慌てて手をぱたぱたと振り、
「や、尊敬っていうか、すごいなっていうか、……、一緒にいれて光栄っス!!」
ありがとうございました、とでもいう風に世良は勢いよく頭を下げる。
「っぷ。くっ……ははは」
思わず噴き出した堺に、世良が「な、何で笑うんっスか!?」と目を白黒させる。
「いや、さ。……ま、そういうことなんだろうよ。椿とジーノもさ」
ああ、そうっスね、納得っス。手をぽんと打つ世良に、本当は違うかもしれないけどな、と堺は心の中で呟き世良のくしゃくしゃの髪を更にくしゃくしゃにするようにかき混ぜた。
「さて、帰るか」
「うっス」
元気よく答えた世良に、なんにせよ、後輩の面倒をみるのは言葉通りに面倒なことだ、と堺は思い、しかしながら、楽しいことでもあるな、と低く笑った。
「あ、堺さん。何笑ってるんっスか?」
「いや、お前も早くジーノみたいな車に乗れるようになるといいな、と思ってさ」
そう嘯きながら、堺は世良を見て、笑った。


090506








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