◆ちょっとした反抗心の顕れに関する一場面◆ 「王子は……意地悪です」 不意の言葉に、ジーノの目が見開かれ、そして笑み崩れた。 「急にどうしたんだい、バッキー」 自分の言葉に困ったように眉をきゅっと寄せ、目を伏せる。そんな椿の様子が可愛らしく、自分に対して珍しく、否、初めて不平めいたことを言ったその心底に想いを馳せる。 「……」 ぎゅっ目を閉じ、何かをふっ切った視線でジーノを見た。 「王子が、からかうようなことを……する、から」 それでも最後まで強い語気で畳みかけられない男の愛すべき優柔不断さにジーノは優雅に首を傾げた。 果たして、椿はジーノのどのような行為について詰っているのだろうか。 次々と記憶が蘇ってくるが、思い当たる節が多すぎて、ジーノは微かに困惑した。 意地悪だ、と言われて否定する気はさらさらない。 それも仕方のない話だ。 可愛い生き物に意地悪をしたくなるのは男の性のようなものなのだから。 「つい、意地悪したくなっちゃうんだよね」 唇を椿の耳に寄せ囁く。 「バッキーが可愛過ぎるから」 ふっ、と息を吐く。 椿の肩がくすぐったさにぴくりと動き、反射的にジーノと距離を取った。 「ま、また、そうやって……からかって」 段々と声を小さくしつつ、だが、きっ、とジーノを見つめる。 その黒い双眸の真剣な色。 ジーノの心を打つ。 椿の瞳を見つめ、眩しげに眼を細める。 「バッキー」 「はい」 律儀に返事をする椿へと、自然な仕草でキスをする。 軽く触れるだけで、離れた。 「バッキーも、僕に意地悪をしていいよ」 近距離にあるジーノの瞳を、椿はきょとんとした表情で見つめ返す。 「ベッドの中で」 しれっとした顔で続け、ふわり、と笑う。 その言葉を理解すると、椿は真っ赤になり、小さな、本当に小さな声で呟き俯くのだった。 「やっぱり、王子は……意地悪です」 090906
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