◆冬の気配◆ 「寒くなってきたな」 「うん」 「お前、そんな格好で寒くないのか?」 「んー。大丈夫じゃない」 クラブハウスの廊下に忍び込んでくる冬の気配にを感じ、コートを羽織った後藤の心配をよそに監督は何でもない顔で答える。 だが、ドアを開け、外に出た途端「寒い、寒い。何だこれ」と騒ぎ出した。 「だから言っただろ」などとは言わず、苦笑するに留める後藤に、「メシ行くのやめた。部屋に帰るから、後藤何か買ってきて」とETUの王様は踵を返そうとした。 「達海、待てよ」 「えー」 「お前、最近まともなもの食ってないだろ」と薄手のパーカーを掴み、彼の行動を阻止する。 「ほら、これ貸してやるから」 じっと睨むように見ている達海へと、素早く手にしていたマフラーを巻いてやる。 「……オヤジっぽい」 不満そうに達海は言い、それでも進行方向を逆向きに変えると、後藤を置いてさっさと外に出てしまった。 そして、後藤の方を振り向き、「腹減って死にそう。今日はお前の奢りだからな」と唇を尖らせた。 我儘な王様の命令に、仕方がないと苦笑し、後藤は達海の後を追う。 外に出ると、夜の冷気が二人を包んだ。 「これ、後藤の匂いがする。……あったかい」 小さく呟いた達海は、肩を寒そうに竦めマフラーに顔を埋めると、後藤の半歩前を歩いて行った。 101115
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