冬の気配




「寒くなってきたな」
「うん」
「お前、そんな格好で寒くないのか?」
「んー。大丈夫じゃない」
クラブハウスの廊下に忍び込んでくる冬の気配にを感じ、コートを羽織った後藤の心配をよそに監督は何でもない顔で答える。
だが、ドアを開け、外に出た途端「寒い、寒い。何だこれ」と騒ぎ出した。
「だから言っただろ」などとは言わず、苦笑するに留める後藤に、「メシ行くのやめた。部屋に帰るから、後藤何か買ってきて」とETUの王様は踵を返そうとした。
「達海、待てよ」
「えー」
「お前、最近まともなもの食ってないだろ」と薄手のパーカーを掴み、彼の行動を阻止する。
「ほら、これ貸してやるから」
じっと睨むように見ている達海へと、素早く手にしていたマフラーを巻いてやる。
「……オヤジっぽい」
不満そうに達海は言い、それでも進行方向を逆向きに変えると、後藤を置いてさっさと外に出てしまった。
そして、後藤の方を振り向き、「腹減って死にそう。今日はお前の奢りだからな」と唇を尖らせた。
我儘な王様の命令に、仕方がないと苦笑し、後藤は達海の後を追う。
外に出ると、夜の冷気が二人を包んだ。
「これ、後藤の匂いがする。……あったかい」
小さく呟いた達海は、肩を寒そうに竦めマフラーに顔を埋めると、後藤の半歩前を歩いて行った。


101115








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