パスポート




「バッキー、今度の連休は空いてる?」
「え?はい。特に予定はないです」
「そう……」
身体休めの三連休。
椿はいつも通り自主練をする位の予定しかはいっておらず、考え事をしているジーノの横顔を盗み見る。
こんなに暑い日だというのに、涼しげな顔をしている。
「それじゃぁ、バッキー。一緒に出かけようか?」
「あ、はい。喜んで」
ジーノと一緒にいれるのは、いつでも嬉しいことだ。
嬉しいことだけど、出かけるというのはどういうことかと思い、椿は少し嫌な予感がして眉を寄せた。
「そう。それはよかった。それじゃぁ、ボク飛行機の予約をしておくから」
「飛行機?!」
「そう、だって3日しかお休みがないのに、船で海外に行けないでしょ。船も楽しいから、残念だけど」
「か、海外」
「そうだよ、南の島ってかんじの所がいいよね。モルディブとか好きなんだけど、ちょっと遠いし……どこにしようか」
どこにしようか、と問いかけられても予想の範囲を超えたお出かけのため、椿の思考はストップしてしまった。
ストップした頭をゆっくりと作動させ、やっとのことで声を出す。
「お、王子……」
「何?バッキーは海よりも山が好きとか?」
「海もすきです。そ、そうじゃなくて、ですね」
申し訳なさそうな椿に、ジーノがきょとんとした視線を向ける。
「俺……、パスポート持ってないんです」
「……え?」
珍しく絶句したジーノに椿はぺこりと頭を下げた。
「や、その、持ってたんですけど、切れちゃって、それから作ってないから……」
「バッキー」
ジーノは器用にもため息と言葉を同時に吐き出す。
「ダメじゃないか。ボクたちは、いつでも海外へ行けるように準備しておかないと。もし君が、明日から海外チームに行くことになったらどうするんだい?」
どうするもなにも、そんなに急に決まるものでもないわけだし、大丈夫だとは思った椿だったが、パスポートを持っていない不利さについても分かるので、素直に謝った。
「すみません」
「ん。まぁ、ないものは仕方ないよね。バッキーは次の連休中に絶対にパスポートを作っておくように」
「はい」
「パスポートができたら、一緒に出かけようね」
「はい」
ふわりと笑うジーノに椿は最前よりも元気よく返事をする。


ジーノが未来のことを言ってくれたのが嬉しくて。
110711








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