◆パスポート◆ 「バッキー、今度の連休は空いてる?」 「え?はい。特に予定はないです」 「そう……」 身体休めの三連休。 椿はいつも通り自主練をする位の予定しかはいっておらず、考え事をしているジーノの横顔を盗み見る。 こんなに暑い日だというのに、涼しげな顔をしている。 「それじゃぁ、バッキー。一緒に出かけようか?」 「あ、はい。喜んで」 ジーノと一緒にいれるのは、いつでも嬉しいことだ。 嬉しいことだけど、出かけるというのはどういうことかと思い、椿は少し嫌な予感がして眉を寄せた。 「そう。それはよかった。それじゃぁ、ボク飛行機の予約をしておくから」 「飛行機?!」 「そう、だって3日しかお休みがないのに、船で海外に行けないでしょ。船も楽しいから、残念だけど」 「か、海外」 「そうだよ、南の島ってかんじの所がいいよね。モルディブとか好きなんだけど、ちょっと遠いし……どこにしようか」 どこにしようか、と問いかけられても予想の範囲を超えたお出かけのため、椿の思考はストップしてしまった。 ストップした頭をゆっくりと作動させ、やっとのことで声を出す。 「お、王子……」 「何?バッキーは海よりも山が好きとか?」 「海もすきです。そ、そうじゃなくて、ですね」 申し訳なさそうな椿に、ジーノがきょとんとした視線を向ける。 「俺……、パスポート持ってないんです」 「……え?」 珍しく絶句したジーノに椿はぺこりと頭を下げた。 「や、その、持ってたんですけど、切れちゃって、それから作ってないから……」 「バッキー」 ジーノは器用にもため息と言葉を同時に吐き出す。 「ダメじゃないか。ボクたちは、いつでも海外へ行けるように準備しておかないと。もし君が、明日から海外チームに行くことになったらどうするんだい?」 どうするもなにも、そんなに急に決まるものでもないわけだし、大丈夫だとは思った椿だったが、パスポートを持っていない不利さについても分かるので、素直に謝った。 「すみません」 「ん。まぁ、ないものは仕方ないよね。バッキーは次の連休中に絶対にパスポートを作っておくように」 「はい」 「パスポートができたら、一緒に出かけようね」 「はい」 ふわりと笑うジーノに椿は最前よりも元気よく返事をする。 ジーノが未来のことを言ってくれたのが嬉しくて。 110711
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