◆衝動と理性のハザマ◆ 高校2年生。明日から夏休み、という終業式の日に、理一と侘助は自宅の長い坂をのぼっていた。 「久しぶりだな」 理一が夏の暑さも涼やかに侘助に笑いかけた。 「……何が?」 理一とは対照的な暑さに辟易している苦虫をつぶしたような顔で、それでも律儀に侘助が問い返した。 「んー。こうやって、侘助と一緒に家に帰るのもさ」 にこりと笑いかける理一を一瞥し、それだけで侘助は黙って足を運び続ける。 蝉の声が道の脇の緑の中から聞こえてくる。 ちらり、と何食わぬ風を装い理一は侘助を見た。 同い年の、叔父を。 とても近いはずなのに、とても遠く感じる。 「そういえば」 不意に侘助が人の悪そうな忍び笑いを漏らした。 「ん?」 「お前、さっき女子から手紙もらってただろ」 ニヤリと挑戦的な視線。 理一は少し考え、るような振りをして、その視線を真っ向から受け止めた。 「貰ったね」 「……どうするんだ、返事」 「さぁ」 誠実そうな笑顔を浮かべ、理一は首を傾げた。 どうして欲しい? そう、問いかけたい衝動に駆られる。 「他に好きな女でもいるのかよ」 普段の拗ねた子供の声ではなく、好奇心旺盛な若者の声で侘助が重ねて問う。 好きな……。 それはお前だ、と言ったならば……。 侘助との距離は縮むのだろうか。 それとも、もっと離れてしまうのだろうか。取り返しのつかない程、遠くに……。 そんな想いを胸底に沈め、理一は得体のしれない笑いで「さぁ」とはぐらかすのだ。 侘助の問いかけを。自分の気持ちを。 「つまんねぇな」 忌々しそうに言い、侘助は空を見た。 蒼天は高く、どこまでも続いていた。彼らの世界の未だ見ぬ、その先まで。 太陽の光が、容赦なく二人を刺していく。 |